既存の事業の枠にとらわれない新たなビジネスを模索していたUさんは、国内はもちろん海外でも人気を博す日本のアニメやゲーム、キャラクターといったIPコンテンツに大きな可能性を見出しました。そこで2020年に立ち上げたのが、IPコンテンツとファッションを高いレベルで融合させたライフスタイルブランド「GARRACK(ギャラック)」です。人気アニメの世界観を再現した腕時計からコレクションをスタートさせ、2024年、ついに時計という枠をも超えたプロダクトが誕生。開発までにさまざまなチャレンジに臨んだプロジェクトについて、本人のコメントとともにご紹介します。
J.U
Timepieceカンパニー
ブランドマネージャー
明治大学 商学部
1
インバウンド等の市場動向を鑑みて新製品を検討するなか、日本の伝統工芸とIPコンテンツを組み合わせたプロダクト開発のアイデアが生まれる。
2
社内提案を行い、役員の承認を得た後は、IPを管理する出版社や、伝統工芸の生産者に今回の企画への参加を提案。さまざまな生産者のなかから、高度な技術力を誇る包丁メーカーとの連携が決定。
3
思い描いた完成度に至るまで試作を重ねる。メーカーから上がってきた試作品に対してフィードバックを送り、修正を依頼。複数回の試作を経て製品化したいものが完成。
4
アニメや漫画等のキャラクター関連グッズを販売する小売業者に製品を提案。反応は良好で、小売店での取り扱いが決定。
5
製品の撮影やビジュアルイメージの制作、ECサイトの制作、プレスリリース作成など、発売開始の前に商品を宣伝するための活動に取り組む。
6
公式ECサイトや小売店で予約販売を開始。それと同時にWebマーケティング施策を実施し、販売を促進。
PHASE 01
オリジナルブランド「GARRACK」を立ち上げたのは2020年、入社8年目の頃のことだった。当時の思いについて、こう振り返る。「日本はもちろん、海外でも大きな市場規模を持つIPコンテンツ。そしてなおかつ、私自身もファンの一人としてその魅力を語ることができます。そんなIPを魅力的プロダクトとして提案することで、新しいビジネスを展開したいと考えたのです」。ブランドの製品第一弾は、アニメ作品の世界感を表現しつつファッションとして着用も出来る腕時計。これは作品のファンを含めて多くの人々を魅了した。
そんなGARRACKの新製品について、どんなものをつくるべきかと検討していた時のこと。市場調査を進めるなかで、海外からのインバウンド需要の高まりや、成長するIPコンテンツ市場の情報を得る。そこで生まれたのが、日本の伝統工芸品とIPコンテンツを掛け合わせるアイデアだった。時計以外の製品への挑戦だ。「長年受け継がれてきた技術の結晶という意味では、時計と伝統工芸品には通じるものあります。インバウンドやグローバルを意識すると、日本ならではの魅力を世界に発信したいという思いがあったのです」。
伝統工芸品のなかでも、まずは「包丁」に狙いを定めた。作中に登場するものを再現した包丁をつくれば、作品のファンだけでなく実用面でも魅力を感じる人がいると考えたのだ。こうして企画の骨子をまとめ上げていった。
PHASE 02
市場規模の調査や作品が既に販売をしている同カテゴリの実績の調査を行い、企画書を作成。さっそく上司や役員にプレゼンテーションを行う。「今まで自社が扱ってきた商材から全く異なったジャンルではあるため、リスクはあるが挑戦する価値は大いにある」と社内の承認を得ることができた。「伝統工芸品という経験のないジャンルへの挑戦でしたが、背中を押してもらえたことにウエニ貿易らしい文化を感じました。もしも売れなかったら、と考えることもないわけではありませんでしたが、逆に、売れるものをつくるために仲間を集めて精一杯努力しようと気持ちが引き締まりました」。
その後は、社外の協力先に向けてのプレゼンテーションを行った。まずは、企画を許諾して頂く、IPコンテンツの管理元への提案だ。何社かアプローチをしたが、今まで商品化をしたことの無い商材の為、中々許諾を頂くコンテンツが見つからなかった。その中でOKを頂いたコンテンツがあった。「その管理をしている会社とはGARRACKの第一弾製品の時からお付き合いがあり、今まで商品化したことの無い未知なジャンルでしたが、ご協力いただくことができました」。
そして、包丁の生産者にも協力してもらう必要がある。社内でも初めての試みだったので、まずはどんな生産者がいるのかというリサーチから始め、1件ずつコンタクトを試みた。だが、簡単には協力先が見つからなかったという。「私たちがつくりたいと考えていた製品は、仕様がかなり複雑で高度な技術が求められます。これを説明すると、なかなか条件的に難しいと断られてしまうケースが多くて」。そんななか、刃物の名産地・岐阜県関市にある「NiNJA」という包丁ブランドと出会った。「NiNJAさんは私たちの企画に共感してくれました。『日本の伝統工芸はこんなすごいものをつくれるんだ!』と、その価値を世界に打ち出していこうと、心を1つにしました」。こうしてすべてのプレイヤーが集まった。
PHASE 03
製品のサンプルとなる試作品づくりでは、漫画作品の世界観をプロダクトに反映するため、妥協なく良いものを追求した。今回の包丁は、工場で簡単に量産できるようなものではない。そのため試作品づくりに時間を要した。「単純にデザインデータをお渡ししてそのままつくってもらうというものではありません。私たちが目指すデザインを職人さんに仕上げていただくわけですが、これが一筋縄ではいかなくて。何度も修正のやり取りを繰り返しながら、私たちの意図を理解してもらうことがとても難しかったです」と当時を振り返る。
試行錯誤の末、3度目の試作品で思い描いていたクオリティを達成。「世の中にまだないものづくりを目指したので、絶対に中途半端な仕上がりにはできません。NiNJAさんのご尽力のおかげで、コンテンツ側にも喜んでいただける試作品が完成しました」。
PHASE 04
製品の販路については、GARRACK公式サイトのほか、漫画やアニメ関連のグッズを販売する小売店でも販売したいと考えた。そこで、以前にも第一弾製品の販売で取り引きのあった小売業者に、出来上がったサンプルを持って提案に行ったという。「小売業者さんも『おもしろいですね!』と、かなり乗り気で、お店で取り扱っていただけることになりました。サイトだけでなく、さまざまなチャネルで販売できた方が消費者の目に留まる確率は上がりますから」。
PHASE 05
販売開始に向けて、製品を宣伝するための素材づくりを行う。まずは製品の写真撮影とイメージビジュアルの制作。「作品の世界観に沿うかっこよさを意識しながらも、実際に家庭で使用するイメージも持ってもらうために、ちょうど良いバランスを意識しました」。
プレスリリースでは、作品のファンの期待を高め、関心を集める目的で情報を一部ずつ公開していくティザー施策を実施。「いきなりお披露目するよりも、ティザーリリースの方がファンの心を盛り上げる効果がありました。こうしたマーケティング施策は別企画の時に得たノウハウを活かしています。リリース後は複数のメディアで取り上げられるなど、手応えを感じました」。
ECサイトの制作は社内のチームメンバーたちの力が存分に発揮された。チームにはプロジェクトマネージャーである自身のほかに、デザイナー・PR・マーケティング・アシスタントという5名のメンバーがいて、それぞれの領域で尽力していた。「もともと、社内でIPコンテンツが好きな人たちに私が声をかけてチームに加わってもらったんです。そんな経緯もあって、モチベーション高くプロジェクトに参加してもらえました。やはり『好きこそものの上手なれ』だと再確認しましたね」。
PHASE 06
2024年5月、いよいよ受注を開始。「予約販売が始まり、PRやマーケティングのメンバーにも継続して協力頂き、Web広告の運用などに注力したこともあってか、順調に売り上げが拡大。SNSでも広く情報が拡散されるなど、世間の注目を集めることができました」。
こうしてリリース後1ヶ月で目標の販売数に到達。これまで時計の販売は数多く手掛けてきたので大体の予測ができたものの、伝統工芸品の販売は初めてということで予想が難しい部分も多いなか、見事に目標を達成できた。そんな結果を振り返り、最後に笑顔でこう語った。「やはりIPコンテンツ×伝統工芸×作中のモノの再現に妥協なく取り組んだことが成功の理由だと感じています。自分たちが素晴らしいと感じるものづくりに挑戦できたこと、そして、世の中にその価値を認めてもらえたことに、大きな達成感を感じました」。
プロジェクトに参加した社内外の仲間たちに全力で協力してもらえたおかげで、良い仕事ができたと感じます。GARRACKは今後もさまざまな製品のリリースを予定していますが、これからも妥協なく価値あるものづくりを追求したい考えです。ウエニ貿易に入社してから、ものづくりの奥深さを知り、そこに携わる人々への尊敬の想いが育まれました。この経験をビジネスとして大きく育てていくためにも、時計の枠にとどまらず幅広い市場に目を向けてチャンスを捉えたいと思います。良い意味での『型破り』に挑戦していきたいです。